福岡高等裁判所 昭和25年(う)1136号 判決 1950年11月09日
被告人
石丸俊夫
外二名
主文
本件控訴はいずれもこれを棄却する。
理由
弁護人荒木新一の控訴趣意第一点について。
原判示第三の各事実はこれに対する原判決引用の証拠を綜合することによつてこれを認めるに十分であつて、所論のごとき事実及び証拠を以てするも右認定を覆えすに足りない。なお原判決が原判示第三の二として被告人近藤の判示シヤツ及びズボンの収賄の事実を認定するにあたり、右物品が同被告人に供与せられたのは被告人平田武行において福岡労働基準局の印刷物の受註に関し被告人近藤からそれまで種々便宜な取扱を受けたこと並びに将来便宜な取計を受けることに対する謝礼の趣旨であると認定し、一方これに対応する起訴状の訴因としては右物品は前記基準局労災補償課の印刷物を中川印刷図案株式会社に独占的に納入させて貰いたい趣旨の下に供与された旨記載されてあることは、まことに所論の通りである。そして右両者は犯罪構成要件を若干異にするから、訴因の変更がなくては原判決のような認定はなし得ないもののごとく一応は考えられる。しかし構成要件を異にする場合訴因の変更を必要とするのは原則であつて、必ずしも例外の許されないわけではない。或る甲なる犯罪の構成要件が、他の乙なる犯罪の構成要件の要素のすべてを包容することができるような場合は、たとえ訴因変更の手続を径なくても後者につき被告人の防禦権の行使に特別の不利益を生ずることがない。従つて斯様な場合、甲なる犯罪の構成要件による訴因に対し、乙なる構成要件による犯罪事実を認定するには、訴因の変更されることが勿論望ましいけれども、しかし訴因の変更がなくても敢て違法ではないと解すべきである。本件はあたかもこの一事例にあたるのであつて、原判決認定に係る犯罪事実の構成要件の諸要素は、結局起訴状に記載された訴因の構成要件に包容され得ると考えられるから、原判決が訴因の変更なくして如上認定を為したことは所論のように審判の請求を受けない事件について判決をしたものとはいえない。よつて論旨は理由がない。